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エンゲージメントを下げているものは

投稿日:2020年 09月 04日


 エンゲージメントの度合いが低いということは、我が国の職場内には、次の二つの要素が欠乏しているということが推測できる。一つ目は「認められている」という要素である。日本では昔から、感じていることを素直に口に出すことについて、あまり「良し」としない文化があるように思われる。「言わぬが花」とか、「阿吽の呼吸」などといった言葉が表しているように、口に出さないコミュニケーションの方が粋であり、レベルの高いもののように考えられていた。そして、これが日本人は何を考えているかわからないと、アメリカ人などから批判される所以でもある。

したがって、職場で部下が優れた仕事をした場合であっても、心の中では褒めているが口には出さない、口に出さなくてもわかるだろうというコミュニケーションになっているケースが多いのではないだろうか。しかし一般的な人間関係であれば、口に出して褒められないということは、評価されていないと理解してしまうことになってしまうだろう。

また日本の場合、従業員を給与の代わりに労働力を提供してもらっている人、すなわち使用人的に考えていた風潮もあり、やって当たり前、うまくできて当たり前ということで、従業員のモチベイションを高めるという意識が、経営陣に不足していたケースも少なくないと思われる。

二つ目の要素は成長の機会」があるかということである。成長を生み出す主な活動は、教育である。企業における教育には、OFF-JT(現場を離れて行う、研修など)とOJT(現場において業務を遂行しながら行われる教育・指導)の二つがあり、日本の企業ではOJTの比率が高いといわれている。OJTが成り立つためには、部下を育てるという利他的な行動に対して、一定程度の評価が与えられていることが必要である。それが成果主義の導入により、目に見える形での成果のみが評価の対象となり、OJTの基盤が揺らいでしまったのである。

また、今や多くの大学に導入されている、目標管理制度もしかりである。部下や後輩の指導は、相手もあることなので、必ずしも短期間で良い結果が出ないこともある。つまり、部下の教育は、目標として設定すると効率の悪いものになってしまうのである。このような、教育という利他的な行動が評価されない風土がつくられることで、働く人たちの成長の機会が減少してきたのである。

ブラック企業と称される組織の出現も、背景を同じくしている。大量に新卒を採用し、一年後には半分以上が退職してしまうような状況も見受けられた。そこには教育して成長させるというような意識はなく、その環境に適応できた者だけが残ることで、組織の体力を維持していこうという考えしかない。働く人ではなく、組織の維持に焦点が当てられていたのである。