アファメーション
投稿日:2026年 06月 18日
アファメーション
他大学との差別化を就職実績で図ろうとしていたことから、学生が希望する会社に入るという夢を実現させるためには、どうしたらいいのかということを、日常的に考えていた。また、自分自身も独立して働くということを視野に入れていたので、自分の夢を実現させたいという思いもあった。そのような時に、フォーチュン500社(総収入に基づきランキングされる全米上位500社)の60%以上が採用している自己変革プログラムが、日本で初めて紹介されるという情報が入ってきた。
研修内容を見てみると、夢を実現させるプログラムを学ぶということが書かれていたので、迷わず参加することに決めたのである。物ごとの見方を変えることや、自分自身の意識を変えることなど、さまざまな興味深い講義やグループワークが行われたが、特に印象に残っているのは「アファメーション」というワークであった。アファメーションとは、肯定的な自己宣言と言われるものである。
研修の中で行われたのは、「仕事・収入」、「家族・余暇」、「健康」の三つの領域において、将来、自分がなってみたい状態を描きなさいというものであった。そしてその際の留意点として、これはちょっと無理だなといった自己抑制をせずに、本当に夢のような、理想的なことを書きなさいというものであった。大きな模造紙を与えられ、何を書こうかと悩んでいた。
その時に思い出したのが、直前の休憩時間の際に、隣の人と話していたことであった。その人は広島から参加していた女性経営者で、会社経営の傍ら、企業経営や子育てに関する本を、既に何冊も書いているということであった。その時に、自分もいつか本が書けたらいいなという思いを持ったことを思い出し、原稿を書いて暮らす生活をイメージして、「仕事・収入」について書いてみたのである。ちなみに、その時に書いた内容は次の通りである。
[仕事・収入]
私は大きなガラス窓から差し込む朝の光の中で、小鳥の声を聞きながら、
頼まれた原稿の執筆をしている。
[家族・余暇]
私は妻と二人で、落ち着いたたたずまいの旅館の部屋から見える紅葉と、
子どもたちの成長を肴に、美味しいお酒と美味しい料理を堪能している。
[健康]
私は毎朝すっきりと目覚め、庭の手入れをすました後、自家製の浅漬けと、
ヘルシーな食材の朝食を美味しく食べている。
この研修に参加した当時の状況は、もちろんアファメーションで書いたものとは全く異なっていて、組織のために毎日働き、旅行に行く時間的な(金銭的も?)余裕もなく、朝食もそこそこに慌ただしく出勤するといったものであった。そのため、書きながらも、こんな夢のようなことを書いて恥ずかしいなという気持ちが、少なからずあったのを今でも覚えている。
初めての本を
アファメーションで書いたことは、その研修が終わってからはほとんど思い出すことはなかったのであるが、ある時、勤務していた大学に、出版社からの問い合わせの電話があった。たまたま私の担当分野に関する内容であったので、その問い合わせに対応し、電話を切ろうとしたときに、アファメーションを書いた際に思っていた、本を書くということがよみがえってきたのである。そこで改めて別件ですがということで、その出版社の人に本を出版する手順について尋ねてみたところ、親切な方で、書きたいと思っている本と同じ分野の本を出版している出版社を探し、そこへ企画書を送るなど、出版に至るまでのプロセスを丁寧に教えてくれたのである。
当時、高校生に対して、将来の進路をどのように考えたらいいのかというテーマで進路講演を行うことが多かったことや、広報の業務として、進学相談会等で受験相談に関わることがあったので、どのようにして自分に合った大学を見つけるかということについて関心を持っていた。書けるとしたら、そのような分野かと思い、大学選びに類する本を数多く出版している出版社を見つけ、電話を入れてみた。大学選びに関する本を出したいと考えている旨を告げたところ、いろいろと聞かれるだろうなという予想に反して、あっさりと、それでは企画書を送ってくださいと言われたのである。
本を出せるというような状況が、すぐに来るということは全く考えていなかったので、大急ぎで、どのようなことを読者に伝えたいのかという出版の目的・趣旨と、目次案などを作成して送ったのである。先方からは、企画会議で検討して回答するとの連絡があり、実績もないので、すんなり了承されるということは、なかなか難しいだろうなと思いながら返事を待っていた。三週間ほど経った頃、出版社から連絡があり、企画会議の了承が得られたので原稿を送ってくださいとの依頼があった。驚くのと同時に、まだ何も準備していなかったので、大急ぎで原稿作成に必要なデータ等を集め、昼間は勤務で作業できないため、睡眠時間を削って原稿作成に没頭したのである。
何とか三か月ほどで原稿を書き上げ、送ることができた。タイトルも私が考えたものよりも素晴らしいものを考えてくれ、さすがにプロだと感心したのを覚えている。そして数か月後、私の初めての本が形になって届いたのである。それを見た時に、これまで感じたことのない充実感と達成感を覚えたのを、今でも鮮明に記憶している。自己変革プログラムを学ぶ研修で、アファメーションを書いたのが二〇〇八年の九月のことで、初めての本が世に出たのが二〇〇九年の四月であった。
念ずれば花ひらく
仏教詩人と称されている坂村真民氏が言った言葉に、「念ずれば花ひらく」というものがある。「念」とは、思いや気持ち、望みなどの意味が含まれていて、「念ずれば」とは、対象に向かって心を集中する、一途に思うといった状態のことである。こうなりたいという思いが、実現に至るためには必須であるということだと思う。ディズニーランドの生みの親であるウォルト・ディズニーも、「夢見ることができれば、それは実現できる」(If you can dream it, you can do it.)と言っている。
同じように、どの大学でも欲しいと思われるような、エンプロイアビリティを身に付けた職員となるためには、まずは、身の程知らずといわれるような「なりたい姿」を描くことが大切なことであると思う。キャリア開発の研究者である、ジョン・クランボルツ博士が提唱した「計画された偶発性理論」(Planned Happenstance Theory)によれば、人のキャリアの八割は、予想できない偶発的な事柄によって決定されるとあるが、その出来事を、自分にとって有用な体験としていくためには、軸となる、自分の「なりたい姿」を持っているということが重要なことなのである。
現在の自分とは、かけ離れた「なりたい姿」を思い描くとき、どうしても無理だという思いが出てきてしまうことになる。それは防ぎようのないことであるから、無理に止めることはせず、「なりたい姿」に憧れるという状態でいいように思う。その思いを強く持つことが、考え方を変え、行動を変え、そして結果を変えていくことになるのである。

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